平成28年11月14日 環太平洋パートナーシップ協定等に関する特別委員会(TPP特別委員会)
○行田邦子君 無所属クラブの行田邦子です。よろしくお願いいたします。
数年前のことですけれども、民主党政権のときでした。私は、そのときに日本がTPPの交渉に参加することに否定的でありました。けれども、今般の交渉結果を見させていただきまして、率直なところなんですけれども、私は、日本政府は結構頑張って交渉したと、このように思っております。それだけではなくて、政府は頑張って交渉しただけではなくて、交渉の牽引役も果たしたのではないかと、このように見ております。
私は、安倍総理を持ち上げる必要がない立場であります。無所属クラブでございますので持ち上げる必要はないんですけれども、このように率直に評価をしております。ところが、そのTPPが今先行きは極めて不透明になっているという状況です。午前中の質疑におきまして安倍総理は、アメリカに求められても再交渉はないと改めて再交渉を否定をいたしました。
では、二国間協定を持ちかけられた場合はどうでしょうか。トランプ氏は元々なんですけれどもこのように言っています。自分は自由貿易は大好きなんだ、けれどもTPPは駄目、貿易交渉は多国間ではなくて二国間でやるべきなんだということを主張しています。仮にアメリカ側から、トランプ氏から二国間、日米の協定交渉をやろうよと持ちかけられた場合はどのような対応をされますでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) 今の段階ではまだ、我々まだ、TPPの米国による批准についても我々は様々な機会を捉えて働きかけをしていきたいと思っておりますし、TPPには二国間協定にはないメリットもあるわけで、これはもう委員御承知のとおりでありますが、アジア太平洋地域に高いレベルのルールが広く適用されて、そして各国にまたがるサプライチェーンの取引コストを一気に引き下げていくという効力もあるわけでありまして、そういう意味において、このTPP、先ほども申し上げましたように、四割経済圏をつくり、そこにしっかりとしたルールが適用されるこのTPPを是非成就させたいと考えております。
また、この二国間においては、例えば日米のFTAはどうかという御質問だろうと、こう思うわけでございますが、現段階ではまだこれ、TPPを、これを追求していく我々にも責任があるんだろうと思いますし、先ほど御紹介をいたしましたが、ペルーで開かれるAPECの際にも十二か国の首脳が集まってTPP首脳会合を行う、米国から招待が来たところでありまして、この場を活用して十二か国が国内手続を進めるよう働きかけをしていきたい、そしてそういうメッセージを出していきたいと、こう思っております。
○行田邦子君 私は、総理は現段階においても日米二国間のFTAをもっとはっきり否定されるのかなと思ったんですけれども、十七日にニューヨークでトランプ氏と会談をされるということですし、またAPECの場でも会われるかと思いますので、そこで総理は是非ともトランプ氏に対して、まずは二国間ではなくて多国間が重要なんだということを、その理解を促していただきたいと思っております。トランプ氏が言うように、自動車を守って牛肉を取ったと、取った取られた、勝った負けたということであれば、これは二国間でも私は逆に交渉は早いとは思いますけれども、それではいかにそのような二国間協定を積み重ねていったとしても、より広い地域での、アジア太平洋地域での共通のルールを作ることができないから、だからマルチ、多国間なんだということを、今更ながらではありますけれども、是非トランプ氏の理解を促していただきたいと思います。
それで、今日私が質問したいテーマに移りたいと思いますけれども、先ほど、冒頭、日本政府は結構頑張って交渉したと思うと申し上げましたけれども、日本政府がもっと頑張って交渉しなければいけないテーマについて伺いたいと思います。著作権保護期間の戦時加算についてです。
戦時加算という言葉、多くの国民の皆様にとってはなじみがないかと思います。私自身がこの戦時加算という制度を初めて知ったのは、実は私がかつて広告代理店に勤めているときのことでした。私のクライアントに対してテレビCM案を提案しようという社内会議においてなんですけれども、何か有名な誰もが知っている楽曲、そして著作権料を払わなくていい、いわゆる著作権フリーの楽曲はないかということで探していたんですけれども、そこで私が思い付いたのがグレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」という曲でした。総理も御存じかと思います。
既にその当時にグレン・ミラーは死後五十年を経過していましたので、著作権料を払わなくていい、発生しないということで、私は社内の先輩に提案をしたんですけれども、ところがその先輩から、いやいや、「ムーンライト・セレナーデ」はまだ著作権料を払わなきゃいけないんだということを言われました。なぜならば、日本は戦争に負けた国だから、戦争に勝ったアメリカの国民が著作権を持っている楽曲に対しては、通常の保護期間に加えて更に約十年長く著作権を日本は保護しなければいけないんだということを言われたんです。平成のこの世の中に、戦争に負けた国だから戦時加算と、こういうことがあるのかと非常に私は驚き、そしてまたショックを受けたことを今でも覚えています。
そこで、大臣に伺いたいんですけれども、この著作権の保護期間の戦時加算というのはどういう制度なんでしょうか。
○国務大臣(松野博一君) 著作権保護期間における戦時加算とは、サンフランシスコ平和条約に基づいて我が国に課せられている義務であり、具体的に言えば、連合国及び連合国民の著作権について、一九四一年十二月八日の開戦時から各国の平和条約が発効した前日までの期間を通常の保護期間に加算して保護するものであります。
○行田邦子君 ということです。日本は、戦争状態にあったときに十分に著作権を保護する状態になかったので戦時加算という制度を課せられているということであります。
本来の、通常の保護期間であれば著作権がもう切れているのに、戦時加算という制度があるから日本は著作権を払わなければいけない、こういった著作物というのは実は結構あります。例えば、ちょっと古いんですけど、越路吹雪、総理なら御存じだと思いますけれども、越路吹雪も歌った「ビギン・ザ・ビギン」、それからあと「私を野球に連れてって」、こういった楽曲。それからあと、さらには文学作品でいいますと、ヘミングウェーの「誰がために鐘は鳴る」、カミュの「異邦人」、サマセット・モームの「月と六ペンス」などなど、結構あるわけなんです。
そこで、大臣に伺いたいんですけれども、日本以外にこの著作権の保護期間の戦時加算という制度を課せられている国がどこにあるのでしょうか。
○国務大臣(松野博一君) 現時点で確認している範囲においては、片務的な戦時加算義務を負っているのは日本だけであると承知をしております。
○行田邦子君 随分御答弁が簡潔だったんですけれども、太平洋戦争時の枢軸国、イタリア、ドイツは結果的に戦時加算を課せられていないと。世界でただ一人日本だけがいまだに戦時加算という義務を負わされ続けているということであります。
そこで、続いて大臣に伺いたいんですけれども、今般のTPPの交渉におきまして、日本は様々な著作権の交渉をしました。そして、著作権の保護期間を五十年から七十年に延長するということで合意をしました。五十年から七十年に延長されるのであれば、私はこれは戦時加算を解消する絶好のタイミングではないかと思ったわけですけれども、TPPにおいてどのような交渉をされましたでしょうか。
○国務大臣(松野博一君) 具体的な交渉経過につきましては、相手国との関係があるので、説明を差し控えたいと思います。
委員御指摘の戦時加算は重要な課題であることから、日本とTPP協定署名国の関係国の政府間で文書を交わし、戦時加算問題への対処のため、権利管理団体と権利者との間の対話を奨励すること、必要に応じてこれらの対話の進捗状況を把握したり、他の適切な措置を検討するため政府間で協議を行うことを確認をいたしました。このことにより、官民連携により戦時加算義務の現実的な打開に向けて意味ある一歩を踏み出すことができたと考えております。
○行田邦子君 TPP参加国のうち、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが日本に戦時加算を課している国でありますけれども、その四か国と各々と書簡、いわゆるサイドレターを交わしたということは私は一歩前進だと思っていますけれども、その中身を見ますと、残念ながら政府がこの問題について前向きに積極的に解消していこう、解決していこうという姿勢がなかなか見て取れません。産業界主導の対話を奨励し、歓迎するということにとどまってしまっているわけであります。
戦時加算というのは、日本が戦争状態にあったときに十分に著作権を保護する状態になかったということが問われて、サンフランシスコ平和条約におきまして、国と国、国家間の約束におきまして日本が受け入れた制度であります。これは民間ベースの話ではありません。国家と国家の間の問題と私は捉えております。
そこで、総理に伺いたいんですけれども、戦時加算の解消について、もっと国が前面に出て取り組むべきではないでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) サンフランシスコ平和条約は、領土の確定や賠償問題の解決を含め、我が国の戦後処理の法的な基礎であり、戦時加算義務の法的な解消は同条約の権利義務の変更を要することから、現実的には困難であります。
その上で、TPP交渉においては、戦時加算対象国の政府との間で、著作権保護期間についてのサンフランシスコ平和条約上の日本の義務に関する二国間の書簡を交わしました。この書簡により、権利管理団体間の取組及びこれを政府間で後押しすることを通じて、対象国において戦時加算分については権利交渉をしないという対応が期待され、官民連携による問題の現実的な打開に向けて意味のある一歩を踏み出すことができたと考えています。
政府としても、民間主導の海外団体への働きかけが更に進展するよう、適切な情報提供を行うなどの支援に努めていきたいと思っています。必要に応じ、関係省庁と連携しつつ、相手国政府に対する働きかけを行ってまいりたいと思います。
○行田邦子君 民間主導で、仮に日本が実質的に戦時加算を払わなくてもよくなったとしても、それはあくまでも戦勝国の国民の皆さんの御慈悲と御厚意によって日本が戦時加算を払わなくてよくなるということにすぎないと私は考えております。やはり、これは国としてもっと前面に立って解消に努めるべきだと私は考えております。
このTPPの交渉、人、物、そして資本、そしてまた情報、それだけではなくて、あらゆる著作物が世界を行き来するこの二十一世紀の時代の共通ルールを作っていこうというわけであったわけであります。ですから、私は、この著作権の保護期間についても日本だけ戦時加算を課せられるということを、この度、これを機に解消すべきだと、このように訴えていきたいと思っております。
それでなんですけれども、大臣に伺いたいと思います。
先ほど御答弁でありました四か国、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドと書簡を交わしたということで、産業界主導の対話を奨励し、歓迎しようと、必要に応じて国家間でも会合を設けようという書簡を交わしたということでありますけれども、実はその二月四日、その後に、同じ日なんですけれども、オーストラリアだけは日本に対して追加の書簡を送っています。
皆様のお手元にお配りしていますけれども、どういうことかといいますと、日本はTPP協定で著作権の保護期間を五十年から七十年に延ばす、そのTPPの発効後、オーストラリアは日本に対して著作権の保護に関する権利を行使しない、つまり戦時加算権利を行使しないことを決定したという書簡を送ってきました。私はこれ本当に前進だと思っております。
そこで、大臣に伺いたいんですけれども、ただ、この書簡というのは法的拘束力がありません。それでは、仮に、仮になんですけれども、オーストラリアの著作権者が戦時加算権利を行使したいと、このように言った場合なんですけれども、そのようなへそ曲がりがいた場合なんですけれども、どのようなことになると解釈をすればよいでしょうか。
○国務大臣(松野博一君) 今回のTPP協定署名式の日に豪州政府から追加的に出された書簡は、日豪両国間の緊密かつ良好な関係を背景に、豪州側が善意に基づき、できる限りの対応をしたいとの意図から発出されたもので、サンフランシスコ平和条約上の権利及び義務を変更するものではありません。そのため、仮に豪州の著作権者が戦時加算の権利を行使したいと主張した場合に法的にそれに対抗できるものではありません。
しかしながら、戦時加算は重要な課題であることから、日本と豪州の政府間で文書を交わし、この問題への対処のため、権利団体と権利者の間の対話を奨励すること、必要に応じ、これらの対話の進捗状況を把握したり他の適切な措置を検討するため政府間で協議を行うことを確認しているところであり、この枠組みに従って政府として必要に応じ、関係省庁間で連絡をしつつ、対象国への働きかけを努めていく考えであります。
○行田邦子君 聞くところによりますと、このオーストラリアからの書簡というのは、日本が求めたわけではなかったと。けれども、これがTPPの交渉を担当してきた閣僚同士の人間関係、信頼関係においてこのような書簡が送られてきたと、このように聞き及んでおります。
私は、この法的拘束力がない書簡ではありますけれども、こうしたことをもっとほかの国に対しても働きかけていって、そして一歩一歩進めていくべきだと思っております。
この戦時加算の問題というのはなかなか難しい問題であることは百も承知であります。なぜならば、サンフランシスコ平和条約が絡んでいるからです。このサンフランシスコ平和条約、もちろん私は否定しません。そして、そこで日本は主権を回復し、そして領土の確定、そしてまた連合国の賠償請求権の放棄ということをセットで戦時加算というものはこのサンフランシスコ条約で規定されているわけですので、なかなか難しい問題だということは百も承知なんですけれども、是非とも政府におきましては汗をかいて、そしてまた知恵を絞って取り組んでいただきたいと思っております。
そこで、最後に、総理にもう一度伺いたいと思うんですけれども、TPPはこのような結果になっております。このTPP自体もどうなるのか分からないという状況ではありますけれども、一旦このような書簡を交わすという結果になりました。そしてさらに、民間主導で、産業界主導で対話を奨励するだけではなくて、必要に応じて積極的に政府間で会合を持って取り組んでいただきたいということを、まずはTPPの参加国、四か国についてはそのことをお願いをしたいと。
そして、更になんですけれども、日本に対して戦時加算の義務を課している国というのは全部で十五か国あります。そのうちの五か国がEUの加盟国です。今ちょうど、日本とEUの間におきまして経済連携協定の交渉、この真っ最中であります。年内の大筋合意を向けて交渉しているということであります。私は、是非この日EU・EPAの交渉の中におきまして、EUは日本に対して戦時加算権を行使をしないという約束を取り付けていただきたいと思うんですけれども、いかがでしょうか。
○内閣総理大臣(安倍晋三君) この戦時加算の問題は、サンフランシスコ条約を締結をする際、日本はまさにこれ、独立を果たすためにこのサンフランシスコ条約を調印をする必要があったわけでありまして、その際、様々なことを受け入れなければならなかったということでもあろうと思います。
そこで、このEU加盟国のうち、戦時加算の対象国は、英国、フランス、オランダ、ベルギー、ギリシャの五か国でありますが、これらの国々との間でも、日EU・EPA交渉を含め様々な機会を活用し、問題の現実的な打開に向けて今後更に働きかけを行っていきたいと、このように思います。
先ほどオーストラリアの例を挙げられました。TPP交渉の結果そうした成果を得ることもできたわけでございますので、EPA交渉においても努力をしていきたいと、このように思っております。
○行田邦子君 さらに、日EU・EPAの交渉におきましては、TPPで出した結果よりか更に一歩も二歩も進んだ結果を出していただきたいと思っております。
日本は、戦後六十数年間にわたりまして、ずっと長きにわたって、この日本だけに課せられた戦時加算という義務を真面目に、そして誠実に履行し続けてきたわけであります。そして、これは経済的な損益でいうとそれほどの大きな額ではないかもしれませんけれども、このことは、この戦時加算の解消というのは日本の姿勢が問われている問題だと私は理解をしております。
総理はよく戦後レジームからの脱却という言い方をされていますけれども、私は余りこの言葉、好きではないんですけれども、戦後レジームからの脱却というのであれば、著作権の保護期間の戦時加算の解消こそ国が汗をかいて知恵を絞って取り組むべきテーマであることを申し上げまして、私の質問を終わります。
ありがとうございました。